俺は、端の端ででもいるんだろうか。
H.A.
朽木が、怪我した。
市丸の剣から妹を守って。
俺はその時藍染に斬られて四番隊のおかげで一命を取り留めたから、事情を聞いたのはかなり後になってからだった。
俺よりも、朽木のほうが重体で。
俺が直っても、まだ床に伏せたままだった。
聞いたところによると、阿散井が側に控えているらしい。
・・・そのせいなのか何なのか、わからない感情のせいで未だ俺は見舞いどころか顔さえ合わせていない状態。
あっちから突然来てくれないかなんて淡い期待もあったけれどなさそうだ。
まだまだ退院なんてしそうにないみたいだし。
すれ違いが多くてしかもお互いあまりマメじゃないせいもあって、もともと会うこと自体そんなにないことだけど、
さすがにもう一ヶ月。
というか、人からしか容態が聞けない今の状態も辛いんだ。
もう全て、朽木に関して考えることは楽しくない。
変な考えばっかり浮かんで、そのたびに雛森の見舞いばっかり行って、・・・。
雛森の見舞いはもちろん行くし、行きたいし、これからもずっと続けるつもりだ。
でも、目覚めてそれからどうしようという不安や焦りやそんなのが湧き上がってきてしまって。
これから、どうしようなんて考えたくない。考えられない。
朽木の、病室の前まで来て、扉に手をかけようとして、止まる。
さっきから、その動作の繰り返し。
今日やっと病室の前まで来てみたけれど、どうもそれ以上進まない。
というか、さっきから病室からは従者なのか家の人が来ているらしくて会話が聞こえていた。
盗み聞きしたいわけでもないんだけど、仕方ない。
「・・・今日の、家の報告は以上です。」
声が、聞こえる。
たぶん、清家・・・とかいう従者の人。
一度だけ会ったことがあるから。
「・・・そうか。ご苦労。」
懐かしい、朽木の声が聞こえる。
「そういえば、先日、ルキア様がいらっしゃっていましたが・・・いかがでしたか?」
それは、初耳だった。
妹だし、見舞いだったんだろうか。
「あぁ、久しぶりに会ったし、楽しかった。かゆもご馳走になったしな。」
「それは、よかったですね。」
中から、二人で喋っているのはわかっているけれど、もう扉に手をかけることさえしなかった。
わかってる。妹さんが何をしたって別にそんな気にすることでないこともわかってる。
だけど、自分が最近まったく話せていないし、楽しかったって言っているのを聞くと、
・・・もやもや、する。
別に自分と一緒にいるのがつまらないと言われたわけでもないのに。
絶望的な気分になって、また雛森のところに行こう---------
そう思って扉の前を離れようと思ったその時、自分を追いかけるように扉が開かれた。
「あ、失礼しました、当たりましたか?」
やっぱり清家さん・・・の、心配そうな声。
逃げたかったけれど、さすがにそれはできなかった。
「あ、いえ、どこも。大丈夫です。」
「そうですか、それはよかった。・・・。」
そこで初めて俺の顔を見たのか、びっくりした様な表情を目の前の人はした。
でも、まさか一度しか会ってないただの平民のことを覚えているはずはないと思って、去ろうとしたその時。
「・・・貴方はもしかして・・・日番谷様ではありませんか?」
ぎくっと、する。
でもそれ以上に、四大貴族ともあろうところの従者の人が自分のことを覚えていたことに驚きを隠せない。
「は、い・・・」
思わず、肯定してしまっていた。
心の中では、通りすがりで迷惑かけてって謝って逃げ出す予定だったのに、
逃げ出せない雰囲気がこの人にはあった。
「白哉様のお見舞いにいらっしゃってくださったのではないですか?
どうぞお入りになられてはいかがですか?」
「あ、いえ、たまたま・・・また来るので。」
「いえ、遠慮することはないんですから、どうぞ。」
そう言って、今にもまた引き返そうとする清家さんを、引き止めて、引き止めて。
「あの、今はいいんです・・・!お騒がせしました。」
もう、とにかくこの場から逃げたい。
どこでもいいから行きたい。ここにいたくない。
「白哉様も日番谷様が来ないとおっしゃってましたよ・・・?」
いきなりの言葉に、凍りつく。
「え・・・?」
「毎日、お伺いしていますが、お目にかかるたび初めに昨日も結局日番谷が来ない・・・って。
本当に毎日。もう元気にはなったと聞いたのに、って。」
「本当に・・・?」
「えぇ。白哉様にはこのことは他言無用だとは言われてますけど。」
・・・え?
「それって、俺に言っていいのですか・・・?」
「白哉様が元気になられるのなら。」
そう、にっこりと笑ってくれる清家さんは、すごい大人だ。
「ここ、開けますよ?」
扉に手をかけながら、そう聞かれる。
今度は、素直にうなずいた。
「・・・はい。」
そう言って、中に入れさせてもらう。
・・・と思ったら、入ろうとする寸前、制止された。
「白哉様。」
「ん?何だ清家。忘れ物でもしたか?」
朽木の声。それだけで、今もう心臓がばくばく言ってる。・・・気がする。
「えぇ、まぁ、忘れ物のようなものです。」
その後すぐ、身体を押された。
「・・・失礼いたします。」
そう言って、他は何も言わずに清家さんは出て行ってしまった。
残ったのは扉の近くに固まったままの俺と、横になってる白哉だけ。
一瞬、音のない世界になったような気がした。
病室が、しんとしたような感じだ。
「・・・日番谷。どうした?」
先に口を開いたのは朽木のほうだった。
でも、第一声がどうした、って。見舞いにきたに決まってるじゃん。
「別に・・・ただうろうろしてたら、お前のとこの従者さんに呼び止められただけだし。」
そっけなくそう答えてしまう。
考えてみたら、それなら帰れといわれても仕方のないようなこと口にしてる。
「・・・違うだろ?」
「え・・・?」
予想もしてなかった言葉が出てきて、固まる。
「うろうろしてたわけじゃないんだろ?」
「あ、え、うん・・・」
思わずうなずいてしまった。これじゃ白哉に会いにきたってバレバレだ。
「何故今日まで来なかった?」
そう、聞かれる。
何故こなかったって・・・そりゃ、副隊長殿が側についてるって聞いたからだよ。
それに従者の人もいるって思ったからだよ。
俺なんて来たって仕方ないし何もできないし邪魔なだけだと思ってたからだよ。
しかもさっきあんな会話聞いちゃって、入れるわけないじゃん。
「だって俺も怪我、してたし、忙しかったし・・・それに・・・」
その後は、続かなかった。
それを言ってしまったら、自分が情けないこと考えていたことになるし。
嫉妬めいた感情を持っていたからなんて絶対思われたくない。
めいた、ってまんまなんだけどそんなこと認めたくもない。
「それに、・・・何だ?」
「別に・・・。ただ、ちょっと忙しかっただけ。」
そこは、受け流せばいいだけだ。何も言ってないし、取り繕うこともないし。
「業務等がか?副隊長はそういうのやってくれるだろう?」
松本は、それなりにはやってくれてるけれど、やっぱり自分で目を通しておきたい部分もある。
「どっちにしても忙しかったし病み上がりだったし・・・迷惑かなって思ってたんだよ。
俺だって色々考えてたんだから。」
「そういうところだけ考えなくてもいいんだぞ?」
それって・・・失礼だし。俺が普段何も考えてないみたいじゃん。
「来て欲しかったってことか?」
うん、我ながらいい感じ。
たまには俺から攻めてみたい。
わざと挑発的にそう言ってみる。
「あぁ、来て欲しかった。」
すごい反応が楽しみだったのに、何の躊躇もなくそうあっさりと言われる。
まさか、そんな風に返ってくるとは思わなくて、思わず顔をそむけてしまう。
「どうした?顔ちょっと赤いぞ?」
逆にそう言われてしまう。
顔背けて、そんなこと言われて少しだろうが動揺して、これじゃいつも通りだし。
「・・・こちらに来ないか?」
「え・・・?」
「そこじゃなくて、もっと近くに来ないかって言ってるんだが。」
「う、うん・・・」
そう言われるなんて思ってもいなくて、でも嬉しくて、白哉のいるところまで行く。
そしたら、突然膝に乗り上げさせられた。
「な・・・っは、なせ・・・っ!」
「暴れるな、落ちるぞ?」
「落ちてもいい!離せ!」
「・・・離さない。」
「え?」
「私だって、お前に会いたかったから。今は、離さない。」
こんなこと言われるの、初めてだ。
いつも意地張って、ろくに話もできないでいる状態で。
朽木もそれを楽しんでいる感じで。
嬉しい。すごく、嬉しい。
「うん、俺も・・・」
初めて、朽木の前で素直になれた気がした。
そのまま、一日そこで過ごして、幸せだった・・・。
FIN.
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初、甘々白ヒツ!・・・のつもり。
白哉さんが歯の浮くようなセリフを言っているところを書きたかった。それだけです。
白哉さんにこんなこと言われたらイ・チ・コ・ロですよね!!
私だったら一発で・・・(お前のことはどうでもいいよ)
でも白哉さんは言おうとすればああいうことを言って振り回していそうだと思います。
ひっつんと末永く幸せに過ごしてくれれば嬉しいなぁ!
さあ二人でいちゃいちゃするんだ!
さて、次は年末ネタだ!その前にクリスマスネタもやりたいな!
ここまで読んでくださってありがとうございました。
06.12.10