あの、キラ---夜神月との対決から数日。ようやく、落ち着いてきた日。
Je
-----side N-----
「あの、ジェバンニ。」
「・・・」
「ジェバンニ?聞こえていますか?」
「何ですか?ネイト。」
ネイト、と呼ばれる。いつも、ジェバンニはそう。決着がついたあの日から。
「ネイト?」
また、本名を呼ばれる・・・。
ワイミーズハウスの頃から、ニアで通ってきた私は、本名で呼ばれることなんてほとんどなかった。
自分でも、忘れていたかもしれない。
誰にも教えてはいけなかった。だから。
「あ、ス、テファン・・・」
「はい、何ですか?」
ようやく、まともな返答を返してくれる。
ジェバンニだって、こんな私のような子供相手にずっと変な敬語使って、今でも敬語使っているくせに。
「もう、ニアじゃないんですが。」
「だから何ですか?」
「・・・仕事向けの敬語はやめてほしいんです。」
「ネイトのほうが、頭がきれる上司なんですから。」
かなり頑張って言ったのに。
「でも、私はまだ子供です・・・。」
「上司でなくても、自分より優れている人にはそうするのが礼儀ですよ。」
「もう、キラ捕まえてこの世からいなくなったんですから、ジェバ、いえ、ステファンのほうが大人ですよ?」
「それでも、私が尊敬していますから。」
・・・何言ってるんだろ。こんな私のようなチビに。
「尊敬・・・?」
「はい。」
「飛行機にも一人で乗れないような輩に持つ感情ですか?」
「はい。」
「でも・・・あの、私たちは・・・っ」
「何ですか?」
どんなに、涼しげで、冷静で表情のない顔をして立っているんだろう。
そう思って思わず顔を上げると、目があった。
でも、そんな表情していなかった。
・・・少なくとも、目は。
意地悪そうに、ニヤニヤしている。まさかずっと・・・?
「・・・意地悪・・・っ」
そう言ったら、さらにニヤニヤされた気がした。絶対、気のせいじゃない。
「何か言いましたか?」
「・・・っ」
「それに、もうニアじゃないっていうなら、そのぶかぶかなどこにもいけないような服はやめたらどうですか?
メロのほうが、よっぽどかっこよかったですよ?」
そんなことまで言ってくる。
「私は、楽だからもうこの格好がいいんです!じゃあ、ジェバンニはメロのところへいけばいい・・・!」
叫んで、しまう。
キラとの対決のときだって、冷静に話せてたつもりなのに。淡々と話して、キラを追い詰めたはずなのに。
もう、いい。
「・・・すみませんでした、ネイト。」
しばらくして、耳元にそう囁かれた。
「そういうときだけ、冷静でなくなってしまうネイトがかわいくて、つい・・・。
それに、メロみたいな格好したら、逆にだめですよ?」
「・・・何故ですか?」
もう話したくもないと思っていたのに、何十秒か前までは。
なのに、普通に口を開いてしまう自分が悲しい。
「誘っていると、思われるでしょう?」
「な、にそれ・・・。」
「ネイト。・・・私のことが、嫌いですか?」
・・・もう。ジェバンニなんて嫌いだ。何で、ジェバンニなんて偽名を私はつけたんだろう。
ステファンが一番かっこよかったから?
こんなにも、目の前の存在にジェバンニが合うなんて思ってもみなかった。
「・・・嫌い、です。」
「そうですか。」
困らせてみたかったのに。表情も声の調子も変わらずただそう言われた。
自分でもわかるほどに身が竦んだ。
喉奥で、ひゅって音が鳴ったかもしれない。
困らせたかったのに。
「敬語、直してくれたら・・・」
「何ですか?ネイト。」
・・・さっき謝ったのは、何だったんだろう。
やっぱり、意地悪だし。
「直してくれたら、嫌いじゃなくなるから・・・っ」
「じゃあ、そのままでいいですよ。」
・・・悔しい。何それ。
「さっき謝ってくれたじゃないですか・・・。」
ひどいと思う。
さすがに黙り込んでしまう。
自分でも、不器用だと思う。黙り込んだ私を見て。
「ネイト。・・・ネイト?」
もう、声なんか出さない。
私が、何回一生懸命声を、言葉を出したと思ってるんだろう。
「・・・好き、ですよ、ネイト・・・」
まだ、振り向きたくない。
好きですよって、ですよって、敬語だから。私は、そう思うから。
そんな風に意地を張り続けている私に呆れたのか、ジェバンニが後ろでため息をつくのが聞こえた。
今までもこんな会話しょっちゅうだったけど、ここまで口聞かなかったのは初めてだった。
いつも、ジェバンニにやられっぱなしだったから、たまには、というより決着つけたかっただけなのに。
ジェバンニにため息つかれると、私は凍えたようになってしまう。
そんな気持ちに、させられる。
「ネイト。・・・私は貴方のずっと・・・ニアの部下でしたし、貴方は今まで私やハルやレスターではまったくわからなかったことを次々と解いて、あのキラを追い詰めたんです。終わったとはいえ、私は貴方のことを、尊敬しているんです。メロ・・・ミハエルと違って貴方が行動的でないとはいえ、貴方だっていなければキラを捕まえ・・・いえ、悪事をとめることは、できなかったんです。SPKとして、ニアと行動した時間はとても長かったので、貴方をネイト、とは呼べてもなかなか敬語を全然使わない、ということはできません。段々とやっていこうとは思っていますが、今はまだ。・・・それでも嫌でしたら、本当にやめます、ここも。そういうことでは、いけませんか?」
・・・そう言われると、そう思ってしまう。
でも。その通りなんだろう。ジェバンニの目を見ると、今度はちゃんとした目をしていた。
さっきとは全然違った。
その目は、まっすぐに自分を見ていたから。嘘じゃないってことくらいわかる。
「・・・はい。」
「何が、はいなんですか?」
「敬語と・・・さっきの、答えです。」
「さっき、とは?」
また始まった。でも。
「さっきの、答えなんです!」
もういいや。でも、絶対、絶対に言わない。
「ネイト。」
今度は、優しく呼びかけられた。
ステファンが、優しくそう呼んでくれると、すごく嬉しい。
何でこんなに私にこういうときは優しくしてくれるんだろう。
私は、SPKとして動いていた頃、ジェバンニにはかなり難題を押し付けていた。
ノートを触らせることも、させた。
そのときは、さすがのジェバンニも躊躇していた。
死ぬ可能性がありますよね、そう聞いてきたジェバンニに私はためらわず冷たく、「恐いならレスターにやってもらいます。」と言った。
ジェバンニはその役目を結局はやってくれたけど。
・・・別に、ジェバンニがキラに殺されてしまってもいいと思っていたわけではない。
けど、はっきりそうしないと、私自身がためらってしまいそうだったから。
夜神月のような者に私情を交えたりでもして戦ったら、確実に負ける。
あのLに勝ったのだから。
その時、レスターが側にいたから何も言わなかったけれど、死なないで一緒にキラの最期を見届けたい、そう口に出したかった。
それが、今考えても一番酷かったと思う。
あとは、・・・あとは、SPKが夜神月のせいで襲撃されたとき。
L・・・いや、キラだが、そしてワタリとのスクランブル交信をできるだけ早くしてほしくて、そう頼んだ。
あの時、やっとLと話せた後、ジェバンニを見ると、目の下が黒くなっていた。
・・・私は、その時何も言わなかったけれど。
・・・そんな私に、何事もなかったように優しく意地悪く話しかけてくれるステファンを見るだけで、嬉しい。
「ネイト?」
何も言わなかったら、また同じように呼びかけられた。
後から一人になると、嫌なこと言ってくるステファンも好きだと思うけど、やっぱり優しくしてくれたほうが、・・・好きだ。
「何ですか?」
「そろそろ、私はここを出ようと思っていますが・・・」
え?
何で?
突然のことに、呆然としている私を見て、ステファンは笑った。
「ここは、出ますよ。だってここは、SPKの本部ですよ。」
そうだけど。
「私もそろそろ、元いたところに帰ろうかな、と。」
それじゃ、・・・。
「ネイトも、一緒にきませんか?行くあてがないのなら。」
行くあて、・・・といえば、ワイミーズハウスしかない。
てか、ワイミーズハウスって、年齢制限あったっけ?
ワイミーズハウスでも、メロのようにマットみたいな、仲のよかった人がいたわけでもなかった。
いつも、一人でジグソーパズルばっかりして、外に出ない子供だったから。
私には、皆と遊びながら、頭の切れるメロがとてもうらやましかったから。
「ワイミーズハウスしか・・・ないけど・・・。」
一瞬、ステファンは黙りこくった。
次の瞬間。
「・・・もし行くあてがあっても、私はネイトを連れて行きますよ?」
「連れてって・・・それじゃステファン、誘拐魔みたいじゃないですか・・・子供の。」
「ネイトが、子供ですか?」
「はい、まだ十代ですが・・・?」
「大統領の前で、全然大統領と目を合わせず、変な座り方をしていたネイトは、・・・全然子供に、見えませんよ。」
「何それ・・・。」
「つまり、連れて行くのは貴方なんですから、私は誘拐魔ではなく、」
------コイビトとして、連れて行きますよ------
はっきりと、そう聞こえた。
小さい、消えそうな声だったけれど。途端、耳だけ真っ赤になった気がした。
「返事はどうなりますか?ネイト。」
何かあるごとに、ネイトって、呼ばれる。
元に戻った声で、いつもの声で、そう尋ねられる。
「・・・うん。」
はじめて、だった。
うん、なんて素直に言ったの。
てか、いつもははいだった私が、うんなんて言葉発するのもはじめてだ。
ワイミーズハウスにいた頃から、丁寧語をずっと話してきた。・・・いつの間にか。
「それはよかった、ネイト。」
「ス、テファンの住んでいたところって、どんなところですか・・・?」
「いいところですよ。広くて、緑が多くて。田舎ですけど。」
「そう。」
そしたら。
「・・・新婚、みたいですね。」
痺れてしまうような声音で囁かれた。
やっぱり、幸せなんだと、そう思った・・・。
FIN.
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ステファンとニアの甘々新婚話が書きたかったから(言い訳)
・・・になる予定が、自分でも笑えるくらいに甘くなってしまったようなそうでないような。
つまんない英語の授業で書いてしまった。
SPKのメンバーの偽名って誰がつけたんだろう?ニアがつけたということにしてしまいました。だってその方が素敵じゃないですか?
もう、ステファンにはジェバンニがぴったしだと思います。
よくわからないっていうかニアが女々しくなっちゃったような気がしますがすみません・・・
ここまで読んでくださってありがとうございました。
06.06.10